MiKaDo


男が死んだ。集落にたった一人の男が死んだ。大型肉食獣の群れの襲来。残りの女達は新たな男の登場を切に願った。男の次、事実上ナンバー2だったあたしの身体に変化が訪れたのはまもなくだった。この集落で男は常に一人だった。生き残るための能力……
「ミサキ姉貴。あっ、もう兄貴か。皆さん心配してますよ。出てきましょうよ」
「うるさい。出てけ」
「みぃさぁきぃ兄貴ぃっ!」
先代の男達はみんなこんな思いだったのだろうか。
わたしの身体は日々変化を続けていた。女として部分が次々と消失し、男としての部分、体毛、骨格、声帯、性器……、わたしの身体が蝕まれていく。これが生き残る能力だということはわかってる。
「ミサキ兄貴が悲しそうにしてたらみんな悲しくなっちゃいますよ。ただでさえもマモル兄貴が亡くなってしんみりしてるんですよ」
わたしはこの集落で唯一の、男。
子孫を残すために、すべての女を愛さなければならない。雄一人生態の宿命。
でも、今のわたしは……
「ユキ」
「? なんですか」
「こっちに来て」
「はい? それでその気になってくれるならっ!!」
ボクの身体を見て驚く。当たり前、こんなに変わってしまったから。
それでもユキは笑顔を向けてくれた。ボクはそんなユキに救われた気がした。そして、今まで以上にユキがかわいく見えた。ユキの唇が潤って見えた。
「さっ、早く行きましょうよ。皆さんが待ってます」
ユキに手を引かれるままに一ヶ月籠もっていた家を後にした。
壇上に上げられ、みんなを見下ろす。老若300余りの女達。
自分の身体が無性に恥ずかしかった。
みんなはどう思っているのだろうか。僕に抱かれたい? それができるのは僕しかいない。
僕は女だったときもマモル兄貴に抱かれたことがなかった。それは僕が断っていたからだけど、それでもマモル兄貴は僕を愛してくれた。すべての女に同じ愛を、僕にもくれた。マモル兄貴はいつも楽しそうだった。いつも、みんなが俺を愛してくれるからと言って。
「ミサキ兄貴! 最初に誰を抱くか決めました?」
ユキが無邪気に聞いてくる。
「ユキちゃん、って言ったらどうする?」
「ユキですか。ユキは……はい、お願いいたします」
顔を赤らめたユキを見る。
俺は……やっぱりユキが好きなんだと思う。前からずっと一緒にいたユキ。女だったときも俺は、ユキが好きだったんだ。
「それで、ユキの次は誰にするんですか?」
「……ユキ」




あとがき。
高校生になって親と水族館に行きました(笑)
そのときに、このような生態系の魚を見ました。
これをヒトに置き換えてみたらどうなるだろう、ってのがキッカケ。
うむむ、コレの長編版書きたい。
レズモノにでも、美少女系でも何でもなりそうだし。
あと、タイトルの「Mikado」の理由はおわかりでしょうか?
この小説を書くに当たったもう一つのキッカケ、それは源氏物語。
平安時代は一人の男に多くの女がいた。
その女達は外界の男を知らない、唯一の男はミカドだけ。
みな、心の底からミカドを愛する。
当のミカドは一人の女を愛そうものなら、それは多くの嫉妬を生む。
だから、みんなを平等に愛さねばならない。一人を愛することは許されない。
   「すべての女に同じ愛を、僕にもくれた。
    マモル兄貴はいつも楽しそうだった。
    いつも、みんなが俺を愛してくれるからと言って。」
と言うことです(笑)



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