ムンクの叫び2


「竹岡ァ!」
 西田の叫び声が学校中に響き渡る。
 今度は西田が生命の危機にあった。西田は宿題を見せてくれと言われて竹岡にノートを貸したが、まだ返してもらっていなかった。古典の熊矢は未提出者は留年したいと言うのと同じだと言っていた。熊矢は嘘をつかない男として有名だった。

「竹岡ァ!」
 西田の叫び声が学校中に響き渡る。
 梅本と柄沢は宿題を写し合っていたが、柄沢が梅本のノートに一つ写し間違えた。つまり、「専」の右上に点をつけた。余談だが、その後の二人の成績と言えば柄沢は3で、梅本は2だった。

「竹岡ァ!」
 西田の叫び声が学校中に響き渡る。
 瓶牛乳を飲んでいた星野は笑いがこみ上げてきた。吐かぬまいと耐えていたが、運悪くくしゃみをしてしまい、鼻から牛乳を吹いた。その後、蛇口を上に向けて鼻の穴の中を洗った。気持ち悪かった。

「竹岡ァ!」
 西田の叫び声が学校中に響き渡る。
 金城は竹岡に五百円借りっぱなしだったのを思い出したが、金城は借りパクするつもりだった。

「竹岡ァ!」
 西田の叫び声が学校中に響き渡る。
 仲間と囲んでお弁当を食べていた後藤はつまんでいたハンバーグを落としてしまった。ハンバーグの表はきれいでも裏が黒こげだったのが仲間にばれてしまった。その後しばらくは、後藤は黒コゲ後藤と呼ばれた。

「竹岡ァ!」
 西田の叫び声が学校中に響き渡る。
 篠木は自分の彼女は料理が上手だと呉に自慢していたが、つい落としてしまったハンバーグのせいで馬鹿にされた。篠木は後藤とつき合っていた。

「竹岡ァ!」
 西田の叫び声が学校中に響き渡る。
 この叫びとは全く関係ないが、山崎の目の前で前野のスカートがたなびいた。しかし、前野がスパッツをはいていたと分かると、山崎は悔しく思い足下の石を蹴ろうとしたが、石に滑ってずっころび、勢いのあまり学生ズボンが悲鳴を上げた。その物音に振り返った前野は男のパンチラを見た。

「竹岡ァ!」
 西田の叫び声が学校中に響き渡る。
 見事生徒会長に新任当選した小田原はだるまの目を黒のポスカで塗りつぶそうとしていた。が、滑ってだるまの口元によだれを引いた。余談だが、そのだるまは百円ショップで買ったプラスチック製であり、右目は修正液で消してあった

「竹岡ァ!」
 西田の叫び声が学校中に響き渡る。
 日本史の追試を受けていた田中はさっぱりだったのでとりあえず「竹岡」と書いた。しかし田中が後で調べたところ、日本史の用語集の索引に「竹岡」と言う名はなかった。

「竹岡ァ!」
 西田の叫び声が学校中に響き渡る。
 トイレで頑張っていた江口は景気が良くなった。

「竹岡ァ!」
 西田の叫び声が学校中に響き渡る。
 姫路と北川はバトミントンをしていたが、姫路が思わずスマッシュを打ってしまった。見事、北川の口の中に入ったが、その後姫路は北川のスマッシュが姫路の口の中に入るまで付き合わされた。

「竹岡ァ!」
 西田の叫び声が学校中に響き渡る。
 少々いかがわしい小説を読んでいた畠山は「ドキッ」として思わず本を閉じた。三秒後、しおりを挟み忘れたことに気づいた。

「竹岡ァ!」
 西田の叫び声が学校中に響き渡る。
 トランプの大富豪をしていた知多は大貧民からもらうカードを落としてしまった。それが致命傷になり、朝田の番に何度もシバリを喰らい、結局大貧民になってしまった。余談だが、朝田はカードの良さに目がくらんだあまり、負けるようなことがあったらジュースを奢ると豪語していた。だから皆真剣だったのだ。

「竹岡ァ!」
 西田の叫び声が学校中に響き渡る。
 大内のトランプタワーは案の定崩れた。

「竹岡ァ!」
 西田の叫び声が学校中に響き渡る。
 プールから上がり目を洗おうとしていた国橋は蛇口をひねりすぎた。が、急激な水流は目でなく鼻に入った。

「竹岡ァ!」
 西田の叫び声が学校中に響き渡る。
 クラブのDJさながらのお昼の校内放送に西田の叫び声がほんの少し入った。これが後ほど、心霊現象のテープとして騒がれるなんて誰も知らない。

「竹岡ァ!」
 西田の叫び声が学校中に響き渡る。
 屋上のベンチにいた新城は財布を盗られたのにも気づかず夢を見ていた。夢の中で新城は銀行強盗だった。

「竹岡ァ!」
 西田の叫び声が学校中に響き渡る。
 竹岡は熊矢に西田のノートに自分の名前を書いて提出していた。竹岡は以前の生命の危機をまだ根に持っていた。西田、合掌。



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