青人空コンクリート

南 那津   

 目覚めると、寝ていたはずのベッドを見上げていた。思わず手をつくと、そこは天井だった。再び見上げると、机やテレビや本棚がそのままの形で存在していた。世界は上下逆さまになっていた。自分の部屋なのに、主人である自分が嫌われているような気分になった。
 それどころではない。窓を開けると、一面に青が広がり、空を覆うかの様に灰色の町並みが続いていた。灰色の空には、車や家が張り付き、木が真っ逆さまに生え、カラスが空にぶつからない様に飛んでいる、得意そうに。ここは高層マンションの八階、見下ろすと残りの十階を見る事ができる。僕だけが、この逆さまの世界にいる様だった。
 気づく、手を伸ばしてテレビの電源を入れる。おかしな映像が映った。いつもと違うキャスターが机にしがみついて、喋っていた。
『明朝六時頃、人類にとって初めての事ですが、世界の上下が逆さまになりました。みなさん絶対に外に出ないで下さい、空に落ちてしまいます。すでに多くの人が……』
 その後のニュースは、外にだけは出るな、それを繰り返し伝えるだけだった。再び窓を開けてみる、広がるのはコンクリートを敷き詰めた空と、果てが見えない青。いつもより窓の敷居の高さが低くて落ちそうになる。
 悲鳴が聞こえた。驚くほど大きかったその声は、すぐに収束する様に小さくなった。人の形が青に落ちていく姿が見えた。それは黒い点となり、見えなくなった。見届けて、ぞっとして思わず窓からのけぞる。
 しばらくして今度は別の悲鳴、すぐに聞こえなくなる。知っている声、このマンションに越して来てできた友達だった。窓から身体を乗り出す。かすかに点が見えて、まもなく消えた。青に落ちていったのだろう。そして、どうなったのだろう。
 気づいた時には遅かった、誰かが背中から押したのか、窓から滑り落ちたのか判らない。広がる青の中に、僕はいた。
 青空に落ちていく。天高く、落ちていく。青に吸い込まれていく。だんだんと見慣れた地面から離れていく。緑が見え、海が見え、雲を突き抜け、それでも勢いは止むことなく。天高く、落ちていく……







 何か見えた。無数の黒い点が見えた。だんだん大きくなり、人の形になり、それのところで止まった。友達もそこにいた、泣くのも止めて途方に暮れていた。
 空に落ちた人はみんなここにいるようだった。地面もない、ただ浮いているだけの世界。人間だけが、ここに連れてこられたようだった。

あとがき。

今回も千字投稿作。
今回はテーマ付きで「天高く」というテーマでした。
このテーマで人の思いつかない様な発想をしてやろうとして、
天は登るもの? じゃあ、その逆は落ちる? じゃあ、天を落ちるものにしてやろう。
そんな簡単な発想にすぎないのですが、結果はどうなるだろう。

内容に関しては、あまりこった内容にせずに、
なんだか不思議な雰囲気だけ味わってもらえれば本望かも。
最後の方で、意味深な事が書いてありますが、オチらしく見せるためです。
別にそんなに深いテーマでやろっかな、なんて一切考えていない本作。

タイトルが結構気に入ってる。
誰も思いつかない様なタイトル、なんだこりゃと思う様なタイトル。
それが第一条件だと、タイトル付けるだけでかなり疲労困憊。

close