*読むときは読みやすい適当な字の大きさ、ウインドウサイズ(幅)に変更してお読みください。
そうしないと冗談なく読みづらいです。
Battle! Battle! Battle!


 ギアが頭をすっぽりと包み込む。バーチャルリアリティーの粋を尽くした世界が広がる。行きつけのゲーセンにこの機種が入ってからと言うもの、俺らは学校の帰りに遊びに行くことが多くなった。……考えてみると毎日だな。
 枯れ果てた荒野。温度は感じることはできないが、視界いっぱいに広がる映像と方向性を持った音は、まるでそこにいる様な錯覚に誘われる。脳はそこにいると思いこんでいると宣伝は歌っていたな。
 そんなことはどうでもいい。今の俺に必要なのは、ここで戦闘ゲームができると言うこと。連れの友達(相手)もこの荒野に現れる。22勝23敗、もうすぐで奴に追いつける。
 手元に出現するツルギ。中世の頃のものの様な古めかしいデザイン。見かけに寄らず軽い。始めてすぐの頃は扱いづらかったが、すでに俺の手に馴染ませた。向こうのは重さがあるが俺のものより長いツルギを握る。
 GO!の合図。第一ラウンドが始まった。奴が先手に出るべく走り込む。後ろに下がりつつ、いつでも受けられる様に構えることを忘れない。
 相手があと一歩にまで近づいてくると、相手の速度が落ちる。違う、世界の速度が落ちる。これはこのゲームウリで、このおかげで瞬間的な動作を可能にする。
 微妙に距離を測りながら。奴が勢いのまま振り下ろすそのツルギは、俺のすぐ鼻先前を通過した。奴のツルギのリーチはほぼ掴めている。一歩踏み出す。奴の腹を狙って薙ぐ、流れる様な動作で構えられたツルギにはじかれる。奴もかなりこのデカブツの扱いに慣れてきた様だ。攻める、はじかれると分かっていても攻める。世界はスローだ。奴は連続攻撃できないが、こちらは小回りがきく。俺の振り直す隙をついて、奴がツルギを振り上げ、下ろす。ゆっくり振り下ろされるそのツルギを、俺は受け止めるか避けるか悩んだ。避ける。左に身をかわすと、薙ぐべくツルギを振り始める。奴はそれが見えたのか、ツルギを振り下ろす体制のまま、ひとステップ下がる。俺は勝負に出ることにした。追撃、一歩出る。ツルギは振り切ったままだから、蹴る、奴の腹を。奴もこの攻撃には意外だったのか、足を崩す。ツルギを振り上げ、後は下ろすだけ。スローのまま、奴とツルギとの距離が近づく。
 っク。一瞬世界が朱に染まる。これは俺の身体のどこかが切られたという証拠。ツルギの刃が身体に触れると、それは身体をすり抜け、そして一度でも切られた方がそのラウンドを負けたことになる。
 理解した。奴は倒れる瞬間、ツルギを守るために使うのではなく、投げたのだ。俺が蹴りから体制を直し振り下ろす動作の時に、奴はツルギを投げたのだ。くやしい。
 先手をとられた。あと2ラウンド勝たねばならない。ピンチか。
 ツルギは消失し、代わりに小型の小銃が出現する。第二ラウンドは銃器。いつの間にか最初の位置に戻され、さらに身長をゆうに超える大きさの立方体の木の箱がいくつも設置されている。それも俺のだ。ここに隠れて、一対一の銃撃戦をしろというのだ。実は、俺は銃撃戦が苦手だったりするから始末が悪い。ちなみに奴の銃は機関銃。体積重量が大きく連射も出来るが、俺のと違って小回りがきかない。
 GO!の合図。でも、今日は違った戦術をとることにする。それも現実では不可能な、このゲーム特有の戦術を。ニヤリ。
 俺は走り出し、とにかく相手を探した。いつもの様には隠れず、相手の姿を探し走る。立ち止まってはいけない。
 いた。10メートルばかり先の箱に張り付いている。足音のしない世界では、突然登場した相手を知る方法は“視る”と“銃声を聞く”しかない。そして、俺の方が引き金が早かった。ゲームのおかげで身体が勝手に奴に向くから照準を合わせる必要はない。避けられなければ必ず当たる。弾丸が奴に近づくと、世界はスローに陥る。簡単に避けられる、かまわない、間伐入れずに引き金を引き続ける。相手は弾丸を“視て”避けることで精一杯だ。重量系の武器は小回りがきかなくて俺は嫌いだ。撃つ、撃つ、撃つ。世界はスローだ。弾の残りは少ない。弾丸と供に、奴と俺の距離もだんだんと近づいている。運がいい、弾丸の一つが奴の抱える機関銃に当たる、その反動で奴がバランスを崩す。ちょうど、奴と俺との距離はゼロに近づいていた。驚きを隠せない相手の顔を見るのはいい。そのまま引き金を引くと、俺の視界が一瞬青に包まれる。俺が勝った証拠だ。
 すぐに銃器と箱が消滅する。お互いスタート地点に戻され、そして目の前に次の武器が出現する。
 最後の第三ラウンドの武器は全くの自由。事前に武器カードを投入して、五つまで扱える。俺は自由に長さの変わる如意棒と、小銃、さらに小型の爆弾。装備は身軽に限る、というか、このカードしか持っていない。
 奴はと言うと、冗談だろ、そこに登場したのは迷彩色に彩られた大型のジープ。当たり前の様に奴はそこに乗り込む。レアカードのジープを当てるなんて、奴いくらつぎ込みやがった。さらに機関銃を構えている。朝からやけに弾んでいたのはこのせいか。
 GO!の合図。ジープのエンジンがうなる。でっかいジープがでっかいまま突っ込んでくる。さらに立ち上がって機関銃をぶっ放し続けている。危険極まりない。試しに小銃を撃ったところで速度のある奴に当たる訳がない。
 伸びろ、如意棒っ! 意味もなく叫んびながら手元のスイッチを押す。100メートルは遠く離れた奴にさえも、ぐぃっと伸びた如意棒は届く。奴に、如意棒を運転席に叩きつけるが、この世界では物質は絶対的な固さを持つので壊れない。奴に姿勢を低くするだけで隠れられる。それでは運転は出来るが、銃は撃てないだろう。まぁ、俺も八方ふさがりなのだが。かまわずジープがこちらに突っ込んでくる。
 途端、俺の身体が浮かび上がる。物理の話で、ジープより向こうの如意棒部分の方が重くなれば、俺の持ってる部分は浮かび上がることになる。吊られた俺を見た奴は、ここぞとばかりに機関銃を構える。ジープとの距離はもう約30メートルしかない。連なる銃声の合間がだんだんと大きくなっていく、世界がスローになっていく。俺は如意棒のスイッチを押して元の長さに戻して、スローになった世界で銃弾を“視て”、避けることに専念する。ジープの軌道を避ける方向に転がり逃げて、奴はジープを方向転換させようとハンドルを切る、…切りすぎた、不慣れめ。世界の速度が元に戻る。立っていたバランスを崩し、扉の付いていないジープから奴は振り落とされる。チャンスだ。俺は如意棒を延ばしながら、奴に向かう。如意棒を大きく振り切る。世界が再びスローになる。奴は今機関銃しか持っていないはずだ。ジープはあさっての方向に走っていく。如意棒のよいところは重くはなるが、下がって避けることができないところだ。奴に襲いかかる如意棒、仕方なしに掴んだ。俺はそれを狙っていた、元の長さに戻すスイッチを押す。急に速度を持ったものを掴んでいれば、それに引かれて人間の身体は転んでしまう。スローでもその事実は変わらない。そこへ俺はここぞとばかりに腰に付けてあった爆弾を投げる。奴は避ける余裕なんかありゃしない。俺は勝利を確信した。
 途端、ギアが外れ現実世界に引き戻される。…制限時間切れというやつだ。最近お金を使い過ぎてるからって、プレイ時間をケチったのがまずかったらしい。クソッ。




あとがき。

高校生活最後の作品。
前からこのようなモノが書きたかったので、それを書けたので満足。
ストーリー性の少ない、完全娯楽小説。しかも、アクションモノ。
記念すべき中高生三千字になぐり込みを書けるつもりで投稿したけど、あんまし振るわず。
感想の方に、私の意志が伝わっている人もいたようで、ありがたい限り。
まぁ、毎回違う手で勝負しているQBOOKSバトル、そろそろネタがつきてきたな。

アクションで難しいと思うこと。
一、距離感
文章で距離感を伝えるのは難しい。数字で出すと、変な感じがするけど、数字以外に共通する距離感覚ってあまりない。
発想がおろそかなだけなのだろうけど、人の小説を読んで研究しよう。
二、戦術
いやはや、その手の勉強全くしたことがわからないもので。手探りで進んじゃった。俺らしい、ちょっとコミカルな感じも出そうとか考えていたのだけど、
いまいちうまくいかない。
三、動作の記述
アクションにはなくてはならないのだけど、ただ説明するだけだと長くなるし単調になる。省略をうまく使って切り抜けなくちゃいけないのに、
省略って言う作業がどれだけ難しいのかを再確認させられました。セコく、スローな世界なんて使っちゃったしな。



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