ボクは黒子。よろしく。


ボクは黒子。カゲの存在。
フツーの人には見えない。すごいだろ。
「おーい、どこにいるんだ?」
ボクの相棒が呼んでる。ボクはこの相棒のお家でお世話になってる。
「いた」
大きな相棒がボクをのぞき込む。相棒だけはボクが見えるみたい。
「ゴミ箱好きだな。食うか?」
ボクの好物、ポテチ。このパリパリがたまらない。
「うまいか?」
ボクはうなずく。相棒が5枚食べる間にボクは1枚しか食べられない。一人で一袋食べるのがボクの夢。
「安上がりなやつ。あっ、いてっ」
変なことを言うからだぞ、相棒。
「お前、自分の姿ってみたことあるか」
ボクは首を横に力いっぱい振った。相棒は鏡をボクの前に置いて、見えるか、って言うけど、そこにボクの姿はない。ポテチがふよふよと浮いている。ポテチを食べるとポテチがお月様みたいに欠ける。もひとつ食べるとまた欠ける。もひとつ食べるとまたまた欠ける。おもしろい。
「じゃ、俺が描いてやろう」
相棒は真っ白い紙の上で手を動かし始めた。ボクは気になって相棒に近づくと、こらこら動くなと言って、もとにいた場所に立たされる。
「じっとしてろ。ポテチ食べたいだろ」
ボクは我慢した。単純なやつだなと言われた。ムッとしたけど、ボクは相棒よりポテチの方が好きだった。
「ほらできた」
これがボク?
「そっくりだろ? な」
紙の上に張り付いていたのは、真っ黒な毛もくじゃらに白い目が二つついた生き物だった。これがボク?
「衝撃の事実だったか。わははははは。ほれ、ポテチ」
がーん。ボクってヘンなの。
「おい、こら、どこに行くんだ」
ボクは一人になりたくて、相棒の部屋を飛び出した。
ボクは風に乗って飛んでいった。
今まで行ったことがないところまで、飛んでいった。というより、いつの間にか知らないところにいた。
ここ、どこだろう。
ヒトがいっぱいいる。
でも、ボクはだれにも見えないからだれもボクに気づかない。
みんながボクを無視する。ボクなんて最初っからいなかったみたいに。
いつものことだから慣れてるもん。胸を張ってみる。
でも、寂しい。
「おいっ!」
あっ、相棒。ボクを捜しに来てくれたんだ。相棒に向かって走り出した。
あれ、いきなりボクの体が急に軽くなった。
「なにこれ、カワイイ!」
ボクの目の前には見たことない女のヒトがいた。
「えっ、君もしかして妖怪?」
きれいなひと。
ばいばい、古い相棒。
ボクは黒子。よろしく。




あとがき。
可愛いような可愛くないヤツ。結局可愛い。
そんな生き物を書いてみたかった。
自分の家にもこんなヤツが一匹いるといいかも……。



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